木々のささやき まごころを贈る パンの木輪 北九州市 八幡西区

 
 
木々のささやき
 
今年の自然行
 
  今年の自然行(自然豊かな所を歩く一人旅)は、熊本県菊地市街から鳳儀山聖護寺までの往復でした。私の師である池田繁美先生が、平成九年に同じ聖護寺までの自然行をされ、そのお話をお聴きして以来、「いつか、きっと私も」という思いが私の心の中にめばえていました。

  早朝四時三十分起床。禅的瞑想、写字、十分な柔体と足のマメ対策を施し、先生から頂いた「自然行・村上素道老師を訪ねて」という報告書を御守替わりにリュックに納め、五時四十五分、菊地市街を出発。

  青々とした田んぼの稲のにおいを嗅ぎながら、ひたすら、ゆるい登り坂を登っていきました。早朝のせいか蝉の鳴き声もまだ聞えてきません。足元の方からしきりに虫の声が聞えてきます。小鳥のさえずりが、木々の間から聞えてきます。空は晴れわたり、絶好の自然行日よりです。四十分位歩いたところで、行く手の山あいから太陽の光が差し込んできました。夏のギラギラした日差しではなく、やわらかい少し赤味を帯びた日の光です。思わず両手を合わせ、今日一日の無事をお祈りいたしました。歩き始めて一時間半ほど歩いたところで一休み。誰もいない、車も通らないところで静かに瞑想をしていると、心から落ち着き、おだやかになれました。そこから、明るい日差しの中を聖護寺へ向って再び歩き始めました。人も車も通らない山あいのところを歩きながら、ふと空を見上げると、真っ青な空にポカンと浮んだ白い雲。空と山の青と緑のコントラスト。その中を黙々と歩いている私。空や雲や山は動きません。私がいくら動いても全く動きません。自然の持つ懐の大きさと自分という人間の存在がいかに小さいかを感じました。

  照りつける日中の日差し、涼しい木かげ、鳥の鳴き声、虫の音そして時々頬をなでてくれるさわやかな風など自然いっぱいの中を歩き続け、いよいよ聖護寺への入口にさしかかりました。「聖護寺へ1.4キロ」の立札。そこから最後の急な登り坂が続きます。汗まみれの体によってくる虫や蚊を払いながらやっと、山の中腹にある目的地聖護寺へ到着。先生と同じ場所まで歩き、そこに立っていることに感動を覚えました。本堂でお参りをすませたあと、僧堂にて禅的瞑想を三十分させていただきました。とても心が落ち着き、穏やかになりました。心が山の静けさの中に溶け込んでいくようでした。

  聖護寺では、一時間程過ごさせていただき、再び菊地市街までまたひたすら歩き続けました。パンパンに張った足を温泉でゆっくり揉みながら、疲れを癒しました。汗をかき、空腹の中に飲む冷たいビールの味は格別です。これも、自然行ならではのたのしみの一つだと実感できました。

  今回の自然行は、「池田先生と同じ所を歩き、同じ場所を訪れ、同じ体験をする」ということで、実践しましたが、これまでにない何か新たな一歩を踏み出せたような気がしました。また、何事にも一歩を踏み出す勇気とそれを継続する強い心の大切さを感じました。

  一人ぽっちで自然に抱かれ、黙々と歩き続けることの心地よさは、実践してみないとわかりません。また、口でも語れないものがあります。もう一度、いや、これから何度でもこうした心地良さに触れたいと思い、自然行へと心が向いそうです。

(平成二十二年八月三十日〜三十一日 実施)
 
2010年10月 第237号より
芳野 栄
 
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