木々のささやき まごころを贈る パンの木輪 北九州市 八幡西区

 
 
木々のささやき
 

とく もと なり、 ざい すえ なり

 

 「 とく もと なり、 ざい すえ なり」という言葉は、中国の古典『大学』に出てくる言葉です。これを経営にあてはめてみますと、社員に対する思いやりが先であり、そうすることで売上や利益は、後から確保されてくるのだろうと、私は解釈しています。この言葉こそが、経営の本来あるべき姿であり、経営環境が厳しい現在、私たちが立ち返るべき大切な指針であると思います。

 私たちは、社員をはじめ、そこで働く全員が幸せになるために働いているのです。私は、幸せを実感できるのは、つぎの五つの要件を満たしたときだと思います。 @体が健康である。 A経済的に困らない。 B人間関係が良好である。 C精神的に安定している。 D生きがいを持っている。

 ところが、現在の私たち街のパン屋さんの状況をみますと、長時間労働や少ない休日のため、充分な休養もとれず、体調不良や場合によっては健康を損なう様なことになる場合もありがちです。また、他業種に比べ充分な賃金を支払うことができなかったりしています。忙しさのあまり、不平や不満がたまり、上司と部下の間で、また同僚の間でも人間関係がうまくいかず、いつもイライラしながら仕事をしている場合もあるようです。さらに、現在の状況から判断して、将来に対して夢を描くことができず不安を抱き、やりがいも感じられなくなってしまうケースもあるように思われます。

 こうした状態を脱却するためには、何よりも経営者の社員に対する思いやり(徳)が必要となってきます。社員にまず幸せを実感してもらえる環境づくりこそが、経営者の本来一番大切な仕事ではないでしょうか。そうすることで、必ず全社一丸となることができ、力を結集することで、道が開かれ売上や利益(財)は、次第に確保できるでしょう。経営者の「徳」が実践できたなら会社の「財」はついて来ると考えます。「徳」つまり思いやりとは、人に不快さを与えないこと、さらに安心と喜びを与える心づかいのことです。現在、経営環境がますます厳しくなる中、「財」を確保してその後に「徳」を施すことは、本末転倒だと言えるのではないでしょうか。

 この一年、私はより一層「徳は本なり、財は末なり」の実践に取り組む所存です。

 

 (業界誌B&C ’10 1月-2月号 「新春の夢」に寄稿したものです。)

 
2010年2月 第229号より
芳野 栄
 
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