木々のささやき まごころを贈る パンの木輪 北九州市 八幡西区

 
 
木々のささやき
 

こころざし 高く

 

 志ネットワークを主宰されている上田晃先生(元 松下政経塾塾頭)から「志と野望」の違いについて教わったことがあります。つまり、「野望」とは、己の損得を対象にした考え方であり、己の利益を大きくする心。また、「志」とは、自分の力をおしげもなく周りの人に与えて、みんなの利益を大きくしたいという心ということです。又私は「志」とは、理屈ではなく体の中からどうしようもなく、湧き上がってくる思いで、皆の為に善かれかしという思いが、こうせずにはおれないくらい心を動かし、体を動かすようなものだと解釈しています。

 しかし、ある一定の時期までは「野望」というものも必要かもしれません。私の場合を振り返ってみても、創業時「一日もはやく年商一億の店になりたい。借店舗でなく自分の店を持ちたい。借家住まいから自分の持ち家が欲しい。中古車でなく、新車が買えるようになりたい。もっと給料が欲しい。」など思いながらやってきました。そして、それらは全て、私にとって大きなエネルギーとなって私を支えてくれ、現在の木輪をつくってくれたのは間違いないと思うからです。

 だからといって、このまま自分の欲望を肥大化させていってよいものかどうか考えてみました。その陰で木輪を支えてくれている社員はどうなの?喜々として働いてくれているの?毎日の仕事に夢と誇りを感じてもらっているの?幸せを実感してくれているの?と考えた時、自分の欲望(野望)をここで抑え<足るを知る>ことの必要性を感じました。自分の事は、もうここらあたりで「よし」とし、このエネルギーを社員のため、お客様のため、地域社会のために使うことが必要だと思いました。不思議なことに、そう考えるようになって、木輪の成長に一層はずみがついたように思います。社員の為に社風をよくする。労働条件(賃金、労働時間、休日等)を改善する。能力開発(人材育成)に積極的に投資をする。いろいろなイベントを企画しお客様と共にたのしむ。一つ一つ広げることより深めることを基本に、お客様の喜ぶことを積極的に実行する。地域社会に対しても、例えば、中学校の職場体験学習等を引き受け、中学生を周りから導いていくなど、自店のことのみならず、目を外にも向けることが大切と考えれるようになりました。

 最近気になっているのが、私達リテイルベーカリーのかかえている問題です。若手の人材不足、後継者不足、労働環境の悪さ等々。私は、これらの問題に対しても、どうにかして自分の力が発揮できる部分はないかと模索しています。パン造りという仕事が、若者にもっと魅力を感じてもらえる。光り輝く将来が展望できる、夢のある、活気と活力にあふれる職業となるよう、環境を整えたいと思い続けています。

(平成21年2月開催された パンメンバーズ例会講演要旨より)


 

2009年3月 第218号より
芳野 栄

 

 
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