木々のささやき まごころを贈る パンの木輪 北九州市 八幡西区

 
 
木々のささやき
 

根を張る経営

 

小麦粉をはじめ副資材も含めて、多くの材料が値上がりし私達パン屋をとりまく環境が厳しくなってまいりました。従来のやり方では、なかなか上手くいかないのが現状のようです。

そこでこれからの経営に求められるのが「根を張る経営」だと思います。木に例えるなら「根」にあたる部分を大切にしましょうということです。

現在のリテイルベーカリーを見て気になるのは、第一に技術偏重の傾向があるということです。つまり、技術さえあればパン屋としてやっていけるという考えに偏っているのではないかと思うのです。技術力のある人が「いいパン屋」と考えられがちですが、環境変化に順応できず、いい技術力を持ちながら店じまいという例も多いのではないでしょうか。

次に人材育成についても気になります。技術を教え伝える事が人材育成であると考えられていることが多いのではないでしょうか。本来の人材育成とはそうではないと思います。
その結果、若い人が育ちにくかったり、後継者難に陥っているのが現状のようです。

三番目に気になるのは、結果をすぐ求めすぎる傾向にあるということです。
そして、そこには常に他店との比較があります。そのため自店の特徴を失い、いつも苦しむ経営者の姿があります。

その原因は、根を張る経営ができていないからだと思うのです。
木に例えるなら「根」の部分つまり社風、理念、経営哲学、人生哲学、人間としての徳といった部分よりも「幹」にあたる部分つまり、製パン技術や販売技術といったところが注目され力が注がれ過ぎているようです。さらに、「花や果実」の部分つまり、売上や利益といった目につきやすいところところばかりに目を奪われているようです。

二宮尊徳の遺した言葉の中に「遠くを図る者は富み、近く図る者は貧す」という言葉があります。目先のことばかりにとらわれすぎると、結果的にうまくいかないということです。それよりも目に見えない「根」にあたる部分をしっかり充実させていく方がすぐに結果に結びつかないとしても長い目で見た場合、はるかに良い結果を残すことができるでしょう。

これからの業界を活性化させるためには私達はもっと「根」に当たる部分に目を向ける必要があると思います。まず経営にたずさわる人が、人間としての「徳」を備ええた人物を目指すこと。そしてその経営者が中心となり理念、経営哲学、人生哲学に裏打ちされた思いやりに満ちた良い社風をつくることが何よりも大切だと思います。

次に経営力、販売力、技術力のバランスをとることも必要でしょう。さらに、地域社会に根ざした経営も心がけなければなりません。自社(自分の店)の発展だけに目を向けず、地域社会との関わりを大切にしていく必要があると思います。
以上が私の考える「根を張る経営」です。この変革期にあたり、まず、企業としての根をしっかり大地に下ろし、どんな変化にも耐えうる大樹に成長したいものです。

H20.3.18 開催されたパンメンバーズ例会講演会要旨より


 
2008年 4月 第207号より
芳野 栄
 
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