願い−お客様の幸せを念じて− |
研修会で次のような話を紹介していただきました。 食堂で百数十名分の夕食の準備としてテーブルにお皿とコップを並べる仕事をしている私に、「今、何を考えながら仕事をしていますか」と突然尋ねられたのですが私は、「別に何も考えていません。」と答えました。すると、「きょう、このテーブルを使って食事をされる皆さまが、どうぞ幸せでありますようにと念じながらお皿やコップを並べてごらん」と指導を受けたそうです。 この話を聞いて、一つのことをするにもしっかり自分の心を動かしながら、思いをこめて仕事をすることの大切さを感じました。私が日頃から、「心を込めて仕事をしよう。」「心を込めてパンを造ろう。」ということをスタッフの皆さまにお願いしていますが、それ以上に、スケールの大きい、また、すばらしい思いの込め方を学んだ気がしました。 私が独立開業した頃、おいしいパン、いいパンがなかなかできませんでした。製パン技術が劣っていたり、パンに関する知識が欠けていたにもかかわらず、どうにかして、おいしい、いいパンができてくれと心の中で思い、一つ一つの工程毎に「どうぞおいしいパンになって下さい。」「いいパンができますように」と自分の力以上のものを期待するあまり、必死に念じていたことを思い出しました。 しかし、それは、あくまで自分の事についてであって、自分の能力のなさを認めながらも何とかしたいという自分の思いにほかなりません。今回の紹介していただいた話は、私のそれとは、大きく異なり、「自分」ということを越えて、他人の幸せを念ずるという事です。すばらしい、大きな愛の心です。 木輪にあてはめてみると、木輪でパンをお買い上げになったお客様に対して、「どうか、パンの事を話題として、素敵な一家団らんのひとときを手にすることができますように」「パンのおいしさに幸せを感じていただけますように」又、「健康で幸せな日々が過ごせますように」と念じながら心を込めて造ることになるように思います。 お客様に心から喜んでいただきたいと念じる心、又、お客様の幸せを念じる心、「自分」を離れて自分以外の人の為によかれかしと思う心が最も大切だという事を、学びました。 |
2004年9月 第164号より 芳野 栄 |