木々のささやき まごころを贈る パンの木輪 北九州市 八幡西区

 
 
木々のささやき
 

「一日を大切に」

 手元に1000通のハガキのコピーがあります。1通目は平成11年3月29日。そして1000通目は平成15年3月21日。息子の学生時代に帰省しているときと、昨年の新店舗のオープン時以外、毎日書き、送り続けたものです。

  ある方が息子さんが家をはなれて東京でパンの修業をされている時、毎日1日1枚のハガキを書き続けられたという話を聞き、「私も息子がいつか家を出て、大学に通う時があるだろう。その時が来たら1日1枚のハガキを書き続けようと心に決めていました。そんないきさつから、毎日1枚のハガキを書き始めました。

 1枚目のハガキを見てみますと「周りの人達は知らない人達ばかりです。会った人にはやさしい笑顔で挨拶するようにしましょう」という事が書かれ、そして1000枚目のハガキには「一日一日を大切にしよう」と言うことを書きました。ハガキの内容は、父から息子へ伝えたいこと、1日あった出来事、最近の家、店舗の様子、日頃から考えていること、本を読んだり又人の話を聞いて学んだこと等々気ままに書き続けました。ハガキのコピーはファイル七冊にもなりましたがそのファイルのタイトルを"切磋琢磨"と名付けてこのハガキを通して親子でお互いに磨き合っていきたいという思いでスタートしました。4年間書き続けて終えてみてそのタイトルそのものであったと思いました。

  「薫習(くんしゅう)」という言葉があります。知らず知らずのうちに染まっていく様を言いますが、親から子へのメッセージが意識する以前に自然と体にしみ込んでいってくれたのではないのかと思います。知らず知らずのうちに、父親としての考え、男子としての考え、人間としての考え、経営者としての考えに触れることによって、それらを養分として、息子が自分自身を一人前の大人に成長させなおかつ磨いていってくれたように思います。また私は毎日毎日書き続けることによって、「続ける」ことのむつかしさと、大切さを学びました。

  息子に毎日ハガキを書くために、「一日一日を大切に生きその中で毎日何かを感じ反省する日々」であったように思います。まさに、お互いにお互いを磨き合った4年間であったように思います。

  今年の3月に入り、いよいよ980枚を越えたあたりから、日に日に息子の将来を念ずる気持ちが高まり一日一言、私という人間の骨格をつくっている言葉を書きはじめました。「素直に謙虚に」から始まって最後が「一日一日を大切に生きる」でした。くしくも1000枚目のハガキを書きながら「一日一日を大切に生きる」ということが、どういう事なのかを私なりに体得できたように思います。

  4年間ハガキを書き続けることによって一つの事をなしとげた充実感と満足感を感じながら1000枚目を書いていました。ふとその時次のような事に気づきました。
「小さな事でも一つのことをし続ける」=「その時その時の充実感満足感を感じれる」=「一日一日が充実してくる」=「一日一日を大切に生きる」
即ち、何かをし続けることによって一日一日が充実し、ひいては、人生を豊かに生きることにつながっていくのでは?

  この一連の考えに至ったとき4年間息子へ書き続けたおかげで最後の最後にやっと一つの結論を見だすことが出来たと思いました。とても嬉しい気持ちで「やった!!」という充実感を感じました。
 
 いよいよ4月1日から息子も新社会人としてスタート。この4年間で自分なりに磨いてきた人間性を発揮しながら、世のため人にためにつくして欲しいと心から激励しました。
息子よ、ありがとう。  感謝

  期せずして息子の大学の卒業式前日に1000枚目のハガキを書きました。意図的に1000枚をねらったわけでもないのに偶然ってあるのですね。「1000」という数字の重さを感じています。

 
 
 
 
 

2003年04月 第147号より

芳野 栄

 
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