木々のささやき まごころを贈る パンの木輪 北九州市 八幡西区

 
 
木々のささやき
 

人生の分岐点U −あるがままに−

 先月にひきつづき、私の四つ目、五つ目の分岐点について述べさせていただきます。 二年間の修業らしくない修業を終えいよいよ独立開業。開業当時を振り返って見ても、 無謀としか、言いようのない開業でした。

 オープンの四日前になっても断面が四角の食パンが四角になりません。 菓子パンも固く食べられたものではありません。「絶望」と「あせり」の中で オープン日を迎えました。

 やっとオープンできたものの売上は、今一つで日に日に落ちていきました。 二年間修業したものの、自分一人でパンを造ったことのない素人がやることです。 お客様はすぐに私の力不足を見抜いていたはずです。当然のことと言えば当然のことです。 そんな日々の中で本気になっていろいろなパンの本を読み、試作し考え、技術向上につとめました。 講習会に出席しては、先生の話をよく聴き店に帰って同じパンを造ってみたり、先輩のパン屋さんを 訪ねては教えを乞い時間をつくって勉強の日々を過ごしました。

 「もし、開店当初から予想どうりの売上げを上げ、順調に推移していたら・・・」スタートは悪く、売り上げが思うように伸びなかったらこそ、夢の実現へ向かっての基礎ができたのかなと思います。スタートでつまづいたことが良かったと思えるのです。

 五つ目の「もしあの時・・・だったら」は、私の一番の理解者であり協力者である妻です。
「もし私が脱サラを決定したとき、妻が快く同意してくれなかったら・・・」また「パン屋として、一緒に働くことに同意してくれなかったら・・・」と思うと、妻のありがたさと心の広さ、勇気ある決断に対して、大いに感謝せざるを得ません。 こうして、私の五つの大きな分岐点を振り返ってみますと、偶然が重なり合って運よく事が運んだように思い 「もともとそうなるようになっていたのかな」と運命的なところを感じる反面、その運命も自らが導き出してきたのかなとも感じます。 それは、「与えられた環境や境遇をありのままに受け入れ、その中で最大の努力を忍耐づよく続ける」という信念を貫き通してきたからです。「東京転勤は、イヤだと言って退職するのでなく、転勤もまた一つのいい人生経験と思い従ってみる」 「資格試験合格に向けて自分の全てを注ぎ込む」「素人のパン屋では、技術が身につかないからと、修業先を変えるのではなく、一から二人で勉強に取り組み、他店との差別化を見いだす」「売上げが上がらないからと捨てばちになって 努力を怠ったり売上げがあがならいのを他人や景気のせいにせず、全身全霊を打ち込んでたゆまぬ努力を続け、パン屋 としてのつとめを果たす」「最大の理解者であり協力者である妻に感謝の意をあらわす」 このように考え行動してきたことで今回の夢の実現に向かって、分岐点で正しい選択が出来たように思います。

 これからもいろいろな分岐点に立つと思いますが、自分の思い描いたような結果を導き出すために「あるがままを受け入れその中で最大の努力を忍耐強く続ける」ことを信念として生きていきたいと思います。 感謝

 

 前回と今回二回にわたり、私の夢が実現したことをそれぞれの分岐点という形で記してみましたが、話をすすめるうちに分岐点をうまくクリヤーするために五つのキーワードがあったことに気づきました。五つのキーワードをこれからも 大切にしたいと思います。

 
 
 
 
 

2003年03月 第146号より

芳野 栄

 
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